メーカーのカタログには数字が並んでいます。可搬重量 10kg、リーチ 1300mm、繰り返し位置決め精度 ±0.03mm。
これらは正しい数字ですが、そのまま比較すると判断を誤るものが混じっています。どこに落とし穴があるかを見ていきます。
可搬重量 — グリッパの重さを引く
可搬重量は、手先に付くもの全部の合計です。ワークの重さではありません。
3kg のグリッパを付けた可搬 5kg のロボットが扱えるワークは、2kg までです。吸着ユニットは真空発生器を手先に載せると重くなり、複数箱を同時に掴むツールは 10kg を超えることもあります。
さらに、カタログ値ぎりぎりでは加減速が鈍ります。最大可搬時の速度性能を別表に載せているメーカーもあります。サイクルタイムが要件なら、そこまで確認してください。
目安として、ワーク重量の 2 倍程度の可搬重量から検討を始めると外しにくいです。
リーチ — 端では姿勢が選べない
リーチはベース中心から手先までの最大距離です。ここで見落とされるのは、最大リーチ付近では姿勢の自由度がなくなることです。
腕をいっぱいに伸ばした人間が、手首の角度を自由に変えられないのと同じです。垂直に押し込む、水平に保つといった姿勢の指定が、可動範囲の端ではできません。
実際に使える範囲は、カタログのリーチより一回り小さいと考えてください。メーカーが公開している動作範囲図を見て、作業点が余裕のある領域に入るかを確認します。パレタイジングのように高さと距離を同時に要求する用途では、昇降軸との組み合わせが前提になります。
繰り返し精度と絶対精度は別物
カタログで大きく書かれているのは繰り返し位置決め精度です。±0.02mm のような値です。
これは「同じ指令を繰り返したとき、同じ場所に戻る精度」です。「指定した座標へ正確に行ける精度」ではありません。後者は絶対精度といい、通常は一桁悪い値になります。
違いが効いてくる場面は決まっています。
- 人が教えた位置を繰り返すだけ — 繰り返し精度だけを見ればよい。多くの用途はこちら。
- CAD の座標から直接動かす(オフラインティーチング) — 絶対精度が効く。キャリブレーションが必要。
- ビジョンで検出した座標へ行く — 絶対精度とカメラのキャリブレーション精度の両方が効く。
カタログに絶対精度が載っていないことは珍しくありません。オフラインティーチングを前提にするなら、メーカーに確認してください。
速度 — 最高速度からサイクルタイムは出ない
各軸の最高角速度が載っていますが、これで実際の作業時間は計算できません。実機では次が積み上がります。
- 加減速の時間(短い動作では最高速度に到達しません)
- 姿勢を変えるための余分な動き
- ハンドの開閉時間、吸着の確立と解放
- センサ待ち、上位機器との信号のやり取り
要件がぎりぎりなら、シミュレーションか実機での実測を求めてください。カタログから計算した値を信じて発注すると、後から取り返しがつきません。
保護等級 — 環境で候補が消える
IP 等級は粉じんと水に対する保護の度合いです。食品工場、切削油の飛ぶ工程、屋外では、この一項目で候補が半分になることがあります。
同じ機種でも仕様違いで等級が異なることがあるため、型式の末尾まで確認してください。
定格出力 — 法令上の区分に関わる
定格出力が 80W を超えるかどうかは、日本の労働安全衛生規則における産業用ロボットの定義に関わります。
ただし、80W 以下だから安全というわけではありません。定義から外れても事業者の安全配慮義務は残りますし、先端に鋭利な工具が付いていれば人は怪我をします。この数字は「規制の区分」であって「安全の指標」ではないと理解してください。
カタログに載っていない、しかし重要なこと
比較表を作っても差が出ないのに、実務では決定的な項目があります。
- 国内のサポート体制。 故障時に何営業日で来られるか。部品の在庫はどこにあるか。
- ティーチングのしやすさ。 現場の作業者だけで品種を追加できるか。デモ機を触らせてもらってください。
- 周辺機器のエコシステム。 対応するグリッパやビジョンにドライバが用意されているか。ここが揃っていないと、統合の工数が跳ね上がります。
- 導入事例。 自社と似た規模・工程の事例があるか。
- 後継機の予定と、保守部品の供給年数。 10 年使うつもりなら効いてきます。
数字で比べられる項目は比較表にして、比べられない項目は実際に触って確かめる。この二段構えが実務的です。